底なし沼とは

 

冒険映画やパニック映画で扱われることの多い底なし沼は、そこから抜け出せない状況の例えにも使われる言葉です。

 

よく耳にする言葉ではありますが、映像が造り物であったり、物事の例えに使われる言い回しであったりすることから、逆に存在感が希薄になっているようにも思えます。

 

今回は、底なし沼の原理を説明するとともに、万が一の場合の脱出方法についても解説します。

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底なし沼の正体は流砂

底なし沼とは、もがけばもがくほど沈み込んでゆく、とても怖い沼です。

 

その正体は圧力によって崩壊する脆い地盤で、この振動を加えることで流動性が増す現象を流砂と呼びます。

 

流砂(りゅうさ、りゅうしゃ)というのは、水分を含んだ脆い地盤に重みや圧力がかかることで崩壊する現象です。

崩壊を起こす地盤そのものを指して使われる場合もあります。

 

この現象は、地下の湧水などによって砂に含まれる水分が飽和状態になることで生まれます。

 

砂に量に対して水分が少なければ、水は砂の隙間を埋めるように滲み込みます。逆に砂よりも水分のほうが多ければ、砂は水の中に沈みます。

 

流砂は、水の量が丁度地面の高さまで満たされている時(飽和状態)に生まれます。

 

流砂は、崩壊するまでは普通の地面のように見えていますので、注意が必要です。

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日本の底なし沼4選

 

谷地まなこ

釧路湿原に見られる、特別な形をした水たまりのことです。

谷地は湿原、まなこは眼のことなので、その名前は「湿原の眼」という意味です。

 

その入口は小さいのですが中が壺型に広がっており、一旦落ちると出難い形になっており、家畜やエゾシカの骨が白骨化して見つかることも有ると言いいます。

底なし沼ならぬ、「湿原の落とし穴」といったところです。

 

蛇の穴

和歌山県の新宮市には、蛇の穴(じゃのがま)という底なし沼を持つ日本最大の浮島「浮島の森」があります。

 

浮島は、湿地に生息するヨシやカサスゲなどの水生植物が枯れて堆積した泥炭層で出来ています。

泥炭は水よりも比重が軽いため、水に浮いた島が出来上がります。

 

蛇の穴は、そういった浮島に出来た穴です。

穴の入り口は小さいですが、底は抜けていて、浮島の下まで到達しており、落ちてしまうと浮島が天井のようになって浮上を妨げます。

 

底なし御池

鹿児島県トカラ列島の1つの中之島にある、直径87m、幅43mの比較的大きな池です。

鬱蒼とした森に囲まれた湿原の中に位置しており、ほとんど人の手が入っていません。

 

水深は中心付近でも約4.5m程ですが、周囲の山から水が土砂と共に流れ込む地形のために池の底は泥状になっており、周囲の雰囲気も相まって、昔から「底なし沼」とよばれています。

 

竜神沼

北海道の稚内にある龍神沼もまた、底なし沼と言われています。

地元では、この沼は30km以上離れた利尻島の姫沼につながっていると考えられています。

 

この沼には、行者がお参りすることで竜が出るという伝説が有り、昭和40年頃に15名程の行者が念仏を唱えながら周りを回っていると、40~50回程回ったところで突然水面がざわつき、闇に包まれた沼の中から龍のような生き物が姿を現したとの話も残されています。

この沼も、底に大量の泥が堆積しています。

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底なし沼の底までの深さを計ってみよう

 

底なし沼の深さを計る

かつて、底なし沼は実際に底が無いのか、その底が有るとしたら、どれ位の深さなのかとの問いかけに、テレビ番組が取り組んだ事がありました。

その取り組みは、ヘリコプターから先の尖った40kgの鉄の杭を落下させ、一体どれくらいの深さまで突き刺さるかという実験によるものでした。

 

実験は前出の竜神沼で行われ、その結果は2m37cmでした。

他の底なし沼と言われる沼でも、似たような結果が出たとのことで、このTV番組により、底なし沼には底があるという事が検証された事になるでしょう。

 

 

底なし沼の危険は深さではない

ただ、この沼の水深はおよそ1m、特に刺さりやすい形状の杭ではありましたが、1m30cmあまりもの深さまで底を貫いたということになります。

その深さまで泥の中に沈み込むことがあるならば、底があろうが無かろうが抜け出せなくなることには違いがなさそうです。

 

底なし沼の恐ろしさは、底がないことではなくて、ハマったら身動きが取れなくなることのようです。

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底なし沼から抜け出せない仕組みは流砂にあり

 

海岸でよく見かける流砂

抜け出せない底なし沼の正体は、流砂です。

流砂とは、細かい砂や粘土の粒子が、地下水や海水等と混ざり合い、水分量が飽和状態になることで発生します。

 

実は、流砂という現象は、立地的に海岸線で発生を繰り返しています。

細かい砂の海岸線には、波の届かなくなった砂浜の中に、潮溜まりのように地面まで海水が飽和しているポイントが残ることがあります。

 

ひたひたと浮いたような砂に足を入れると、思いがけなく数cm沈み込む経験をすることがあります。

緩い結合の粒子の層が厚くなると流砂となり、崩壊による危険性も蓄積されて行きます。

 

砂漠の流砂

砂漠にも流砂が発生することがあります。

 

砂漠の流砂は、雨が降った後に現れます。

砂漠の砂は粘度を持たず、お互いの結合度が低いため、間に水分が入り込む事によって一気に崩壊をし、流れ出します。

時にこの砂の流れが大きな流れる砂の川を作り出すこともあります。

 

一方、映画でよく見かけるのは乾いた流砂です。

地下空間に向けて流れる砂に取り込まれ、アリジゴクの巣のように、砂の流れに呑み込まれて行くというものです。

 

足が抜けなくなる仕組み

水分量が飽和状態の砂は、水の中に浮遊した状態となっており、粘土が低く自由度が高いため、少しの振動でも砂が動ける状態になっています。

 

ここに足を踏み入れると、足の裏の面積に対する質量が地面からの砂の質量よりも大きいため、一旦、砂同士が結びつきを失って足が沈み込みます。

密度が均一ではなくなった砂の粒子は、比重の重い砂が下へ、軽い水分が上へと偏り始めます。

 

この偏りが、深いところでは砂が締まった状態になり、浅いところでは手応えのない状態を作り出します。

 

ここで、焦ってジタバタしてしまうと、更に砂の圧力の偏りが顕著になり、足元の砂は高密度になり、地面近くでは水分量が増すことで流動性が高くなります。

 

その結果、沈んだ足が引き抜けなくなるばかりか、身体を持ち上げようとついた手には、地面の手応えが無くなって行くのです。

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チキソトロピーの性質が底なし沼の原理だった

 

コロイドとゲルとゾル

大きめの粒子(直径1nm〜100nmの粒子)の物質が、小さな粒子の物質の中に均一に分散している状態をコロイドと言い、この時の粒子の小さな物質が液体であった時には、コロイド溶液と言います。

 

コロイド溶液のうち、流動性を持ったものをゾル、形状を保てるほど流動性を失ったものをゲルと言いますが、同じ組み合わせのコロイドでも、その比率であったり温度等の条件によって、ゾルの状態でになったりゲルの状態になったりします。

 

例えば、ゼラチンは低温の状態ではゲルですが、温度を上げるとゾルに変化するコロイド溶液です。

絵の具は、溶かした水の量でゲルだったりゾルだったりしますが、ペンキのようにかき混ぜる速さでゲルからゾルに変化する性質を持つものもあります。

 

チキソトロピーとダイラタンシー

流動体の中には、かけられた力に比例して変形をするニューロン流体だけでなく、その規則にあてはまらない非ニューロン流体が存在します。

 

その流体は、ゲルのように加わった力により変形した形状を保つを塑性個体の状態と、ゾルのような液体の両方の性質を行き来します。

 

このような中間的物質の性質のうち、物体にはたらく力が小さければ固体状で、物質にはたらく力が大きいと液体状になる現象をチキソトロピーと言い、

逆に、物質にはたらく力が小さければ液体状に、力が大きければ固体状になる現象をダイラタンシーと言います。

 

底なし沼の性質はチキソトロピー

底なし沼の流砂は、砂や泥の粒子が水の中に均一に分散している状態になっており、コロイド溶液の状態と似ています

(粒子が大きいのでコロイドではない)

 

流砂に現れる粘度の変化は、チキソロピーの現象として説明が出来ます。

この時の変化の要因は、外からの圧力の変化です。

 

具体的に言うと、平衡を保っている砂と水の関係に、足を入れてかき混ぜる等の圧力変化を加えることによって、その砂の粘度が次第に低下します。

流動性が増すことによってて地面がゾル状になり、沈み込むことになります。

そこで動きを止ると、次第に流動性が低下してゲル状に戻り、足は動かなくります。

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宮城県大衡村の沼の死亡事故とは

 

小事故の概要

2016年の7月1日の夜に、宮城県大衡村の八志沼(やしぬま)では親子3人の死亡事故が起きました。

夜の沼で父親が男児2人を連れて釣りをしている間に起きた事故です。

 

発見された時には心肺停止の状態で発見されましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。

 

抜け出せなかった理由

調査してみると、八志沼の護岸はコンクリートで固められていましたが、水面までの傾斜が急な上に、コケや泥で滑りやすくなっており、大人でも自力で陸に上がるのは難しい状態だったことがわかりました。

 

沼地ということで水生植物が多く、手足の自由が奪われた上に這い上がることも出来なかったようです。

手足の自由が奪われること、這い上がれないこと、いずれも底なし沼での事故と通じるところがあります。

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底なし沼にハマってしまったときの脱出法

 

危険に見えない底なし沼

一見、他の地面と大差ないように見える底なし沼、表面に砂が浮いていたり、落ち葉等で覆われていると、そうと気付かずに足を踏み入れてしまう危険性があります。

 

また、底が見えていればその深さから恐怖感が生まれて注意するものの、表面が泥や砂としか見えない底なし沼では、その注意も働かず、渡れると思って足を踏み入れてしまうこともあります。

 

底なし沼にハマってしまったら、どうすれば良いのでしょう。

流砂による底なし沼からの脱出方法を紹介します。

 

 

流砂からの脱出方法の原理

底なし沼の砂も泥も、人体よりも比重の重い粒子です。

同じ体積ならば、人間は砂の中に沈むはずはないのです。

 

それなのに沈むのは、靴の裏の小さな面積に全体重が集中してしまうためです。

ならば、体重を受け止める面積を広げれば沈まないということがわかります。

 

もう一つ、飽和状態の粒子は圧力変化(振動)を加え続けることでチキソトロピーの現象として流動化するので、沈みかけている足を動かさなければ流動化も進みません。

この2つの原理を組み合わせれば、脱出は難しくありません。

 

流砂からの脱出手順

底なし沼にハマった時に、最初にしなければならないのは動きを止めて落ち着くことです。

落ち着いたら、脱出手順を思い出しながら、ゆっくり行動を開始します。

 

底なし沼にハマった足を動かすと、周りの砂は流動化し、下半身を締め付けている地盤が緩み動かしやすくなります。

この時、足を抜こうと上下にバタバタさせると更に沈み込む結果になりますので、左右の隙間を広げるつもりで揺らします。

足を動かしている間は流動化が持続し、下半身の周りには水が流れ込んで砂の密度は下がります。

 

ある程度下半身を抑え込む砂が緩んだら、いよいよ脱出の始まりです。

 

思い切って仰向けに寝て、背中全体を地面に付けてしまいます。

続いて、少しだけ自由になった足を抜くために、背中全体に体重を分散させながら、足を引き抜いて行きます。

足を抜く際、靴が脱げやすくなりますが、脱げてしまった方が先端が細くなって足を抜きやすくなりますので、思い切って砂の中に置き去りにしましょう。

 

下半身を砂の上に抜き出すことに成功したら、そのまま立たずに背泳ぎの要領で腕を動かして移動します。

硬い地盤に近付いたら、ゴロゴロ転がってしまえば脱出完了です。

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